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もとに推進されている。
これら2つの例に見るように、海外では汚濁負荷の放出点を沖合い(海洋)に移し、湾奥の富栄養化を抑制することを狙った海洋放流方式の長い歴史がある。
(5)海洋放流に関する法的規制
沖合い(海洋)放流というと内湾に対しては負荷削減効果が期待でき有効であろうが、放出先となる外洋に対しては不都合が生ずるのではないかという懸念がある。もちろん、海洋に油や廃棄物を投棄することは国際法によって禁止されている。しかしながら、生活排水については対象外である。したがって、外洋放流は国際法に抵触しない。しかもいま議論の対象になっているのは処理された下水の放流である。現行の湾内放流は容認するが外洋放流は認めないというのは矛盾する。
(6)海域の水環境の総合管理
海域の水環境は陸域、河川域と一体となって実施することが重要である。陸上で発生する汚濁負荷量を削減することが最も重要であり、とくに滅菌や有害物質の除去には最大の努力を注いで頂きたい。下水の処理技術を高める努力は今後も怠ってはならないが、三次処理として窒素やリンの除去には技術、経費、物質循環の観点から判断してある限界値を設定すべきであろう。窒素、リンなどの栄養塩は固定して物質の循環系から取り除くというのでなく、これも貴重な資源としてリサイクルし、循環系に積極的にとり組むことを考えるべきである。このような観点から、処理下水の放流点を内湾から外海方向に移動して適地を選定すれば、内湾、外洋ともすばらしい水環境が蘇ってくるに違いない。

5. おわりに

わが国の各地で展開されているウォータフロント開発の中で海水の浄化に取り組んでいる例は少ない。それだけ技術的に難しく経費も膨大となる。悪臭が漂い、黒い海水のままでは海のもつ恵みを満喫できない。それとも本当のうみの良さ、快適さを理解している者が少なくなったのではないかという錯覚さえ覚える。うみの良さ、快適さを取り戻したい、あるいは新たに確保したいという市民の強いニーズ、熱意がぜひとも必要である。前述のオーストラリアやアメリカの例でも明らかなようにいずれのプロジェクトも住民の強い要望と協力に支えられている。海水浄化の意義、技術的な方法などについて一人でも多くの理解者、協力者を求めることが我々の役割りである。

参考文献

1)谷野賢二・中内勲:自然調和型漁港づくりをめざして−防波堤の藻場・産卵場機能の向上−、第41回全国漁場建設技術研究発表会、平成8年9月。
2)シーブルー計画、シーブルーテクノロジー研究会、昭和63年。

 

 

 

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